AI利用コストは低下しているのに、なぜ支出は増えるのか
AI利用コストが下がる一方で有料サブスクと利用量は増加しています。米国家計の決済データやOpenRouterのデータをもとに市場の変化を読み解きます。
ビジネス業績より先に下落した株価
a16zが紹介した米国の新聞社株価チャートには、株価と業績見通しのタイムラグが見て取れます。
チャートにおいて株価は2002年から下落し始めましたが、業績見通しが大幅に悪化したのは2007年頃でした。業績の悪化が数字として表面化する前に、投資家が事業の先行きを低く評価した事例です。
[チャート1:Newspaper Stocks Sold-Off 5 Years Before Earnings Collapsed]
現在、ソフトウェア株でも同様の議論が交わされています。「業績はまだ堅調だが、AIがいずれSaaSを崩壊させるだろう。新聞社のときのように事前に売却すべきだ」という論理です。実際にソフトウェア企業の向こう12カ月予想フリーキャッシュフローに対するマルチプル1は、2014年以降で最低水準まで低下しました。
AIの普及を新聞産業の衰退と同じプロセスとして捉えてよいのでしょうか。AIの利用量が増加しているというデータもあります。利用コストが低下した際に需要がどれほど増え、その需要を誰が売上として取り込むのかを合わせて見極める必要があります。
ソフトウェア銘柄ごとに異なる株価動向
ソフトウェアセクターの株価下落を一括りにしてしまうと、銘柄ごとの違いを見落としがちになります。a16zの分析では、米国のソフトウェアETF構成銘柄をリターン順に分類して比較しています。
[チャート2:Software’s Selective Sell-Off、$IGV分位別リターン]
米国ソフトウェアETFであるIGV2の構成銘柄をリターン順に4つのグループに分けてみると、年初までは上位群と下位群が似たような動きを見せていました。ところが2026年1月を境に乖離し始め、現在では上位4分位と下位4分位の間に約50%ポイントもの格差が生じています。上位4分位に至っては、むしろプラスのリターンを記録しています。
興味深いのは、この格差が売上高成長率とほとんど相関していない点です。高成長の大手銘柄が最下位グループに集中しているケースも見られます。a16zは、投資家が現在の成長率だけでなく、AI時代においても競争優位を維持できるかどうかを評価していると分析しています。分析対象のサンプルにおいて、セキュリティやシステム監視、特定産業に特化したソフトウェア企業は比較的堅調だった一方、汎用プラットフォームやツール系は軟調でした。もっとも、株価動向が各企業の命運を決定づけるわけではありません。
**ソフトウェアを作れるという事実だけでは、もはや競争優位を保てなくなったという解釈です。**AIの利用コストが低下したことで、新規競合が参入しやすくなった点も考慮に入れる必要があります。
売上が85%急増した企業が「サブスクは死んだ」と言った・第147号・INLEVEL9 Letterソフトウェアが仕事を代わりに終わらせてくれる時代、値札が変わりつつあります