GoProを装着してロボット学習データを作るインドの労働者
カルール工場の労働者はGoProで日常を撮影しロボットを訓練しています。しかし、そのデータは誰のものなのでしょうか。
社会カルールにある繊維工場、額にはGoProが装着されていた
インド・タミル・ナードゥ州の小さな都市、カルール(Karur)のある繊維工場には奇妙な光景があります。ラベルを貼り、布バッグにアイロンをかけ、衣服をたたむ平凡な作業場ですが、8人ほどの労働者が額にGoProを取り付けたり、スマートグラスをかけたりした状態で働いているのです。AFPの記者が直接目撃した光景です。1
ここで働くある女性は、出産後に教師の仕事を辞めた28歳です。今彼女が行っている仕事は、1日6〜7時間カメラを装着し、衣服をたたみ、食器を洗い、子どものおもちゃを片付けるといった自身の日常をただ撮影することです。その対価として収入を得ています。しかし、このデータはいつか彼女の仕事を代替するロボットを訓練するために使われます。
私はこの場面を見ながら、前号で取り上げた中国のブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)2を思い出しました。中国の産業育成とインドの映像データ収集は異なる事業ですが、技術開発の利益を誰が得るのかを比較することができます。国の支援を受ける技術企業と、映像撮影の対価を受け取る労働者とでは、将来的に収益を得る仕組みが異なります。
中国は脳信号技術を産業として育成する
前号で取り上げたように、中国は人間の神経信号を読み取り解読する技術そのものを目標に据えています。
2025年7月、中国政府は工業情報化部など7つの省庁が共同でBCI産業育成のロードマップを発表しました。中核技術の開発と標準化、産業エコシステムの醸成を一体で推進する計画です。目標も具体的です。2027年までに電極、ニューラルチップ、信号解読アルゴリズムでブレークスルーを生み出し、2030年までに「世界水準」の企業を2〜3社育成するというものです。2025年12月には深センで総額11億6,000万人民元規模の脳科学産業ファンドと初期投資プロジェクトの協定が発表されました。3
育成対象には電極やチップといったハードウェア、信号解読アルゴリズムなどが含まれます。自国企業が中核技術と知的財産を確保できるよう支援する政策です。政府が産業を支援することと、すべての技術を国家が直接所有することは区別して捉える必要があります。
もちろん、この道にも限界はあります。電極を人間の脳に埋め込む侵襲的技術は臨床検証と倫理的検討が必要であり、市場が開拓される速度も緩やかです。中国のBCI市場は2025年時点でも5億ドル前後にすぎないと推定されています。しかし、目指す方向性は明確です。神経信号を扱う技術を自国産業の基盤能力として育て上げようとしているのです。