イケアは本棚に男性の名前をつけます
自ら進行したネーミングワークショップやイケア、Kimiの事例を通じて、候補よりも基準を先に決めるアプローチを探ります。
ビジネス名前より先に基準を決めると会議は短くなる
私はGTM戦略を策定する中で、製品名や料金プラン名、機能名を決めるワークショップを何度も進行してきました。機能の内容自体には合意できているのに、名前を選ぶ段階で会議が長引くことがありました。候補をいくら追加で募っても、すんなりとは終わりませんでした。
ホワイトボードに40個もの候補を並べて「どれが良いか」と尋ねると、個人の好みに応じて意見が割れてしまいます。そこで私は、候補を募る前に「どのような種類の名前を採用するか」を先に合意するよう順序を変えました。私のワークショップでは、そうして候補を40個から6個に絞り込んだうえで、わずか15分で決定に至った経験もあります。
イケアの製品名の命名ルールを読みながら、このときの経験を思い出しました。イケアでは毎年約2,000〜3,000個の新製品に名前をつけているそうです。それほど膨大な数の名前を決めるにあたって、製品の種類や単語の条件をあらかじめ定めています。
本棚には男性の名前、ソファにはスウェーデンの地名
イケアの公式な説明によると、製品にはスウェーデン語の名前を用いているといいます。例として、ソファにはスウェーデンの地名、本棚には男性の名前、子供向け製品には動物や自然に関連する名前を挙げています。
製品名として採用されるための条件も記されています。
- 実在する単語であること。
- 文字数は4〜12文字であること。
- Å、Ä、Öが含まれていることが好ましい。
- 口に出したときの語感が良いこと。
- すでに商標登録されている名称や姓(ファミリーネーム)は避けること。
ここでいう男性の名前とは、姓とは区別されるものです。「ビリー(Billy)」のように個人の名前を指します。また候補については、他言語で意図しない意味になったり、政治や宗教と不適切に結びついたりしないかも検討するそうです。
一方でサービスや機能には、各国の言語で理解しやすい説明的な名前を用いるといいます。製品にはスウェーデンらしさというアイデンティティを込めつつも、顧客が利用方法を把握すべき領域では明確な説明を優先しているわけです。イケアの製品名ルール
私はこの区分が実務において役立つと考えています。すべての名称が独創的である必要はありません。製品を記憶に残すための名前と、押したときに何が起きるかを伝える機能名とでは、役割が異なるからです。
カテゴリーを定めておけば、本棚の名前を議論している最中に、突如として航海用語や抽象的な感情表現にまで候補を広げてしまう必要が減ります。依然として良い候補を探して吟味する必要はあるものの、最初からすべての言葉を並べて選ぶよりは、意思決定の範囲が狭まります。
同じ機能でも複数の名前が出てきうる
開発者が変数や関数の名前をつける際の研究でも、選択は容易には一致しませんでした。ドロール・ファイテルソン(Dror Feitelson)氏らの研究チームによる一連の実験には、計334人が参加しました。最初の実験における47通りの命名状況において、2人が同一の名称を選択する確率の中央値はわずか6.9%でした。これは特定の実験条件下で得られた数値であり、あらゆる開発チームにおける合意率を意味するわけではありません。How Developers Choose Names
研究チームは、名前を決める行為を3つの選択として説明しています。「どのような概念を込めるか」「その概念をどの単語で表現するか」「それらの単語をどう組み合わせるか」です。同じ機能を理解していても、強調したい概念や選択する単語が異なれば、生まれる名前も違ってきます。
異なる名前を提案したからといって、相手がその機能を誤解しているとは限りません。逆に、同じ名前を使っているからといって全員が同じ意味で理解していると安心することもできません。だからこそ私は、候補を投票にかける前に、「その名前が何を伝えなければならないのか」から目線を合わせるのが望ましいと考えています。
たとえば料金プラン名であればグレードの違いを伝える必要があり、機能名であればユーザーができる操作を伝えなければなりません。社内プロジェクト名であれば、チーム内で対象を区別できれば十分かもしれません。この3つを同じ基準で評価する理由はないのです。
Kimiの料金プランは音楽用語で束ねられている
最近目に留まった事例は、Moonshot AIの「Kimi」の料金プランでした。韓国語のヘルプでも、プラン名はアルファベット表記のまま記載されています。
| プラン | 月払い価格 |
|---|---|
| Moderato | 19ドル |
| Allegretto | 39ドル |
| Allegro | 99ドル |
| Vivace | 199ドル |
これは年払いの月額換算価格とは区別された金額です。Kimi料金案内
これらの名称は、楽譜で演奏のテンポ(速さ)や表情を表すイタリア語の用語です。私は同系列の単語でグレードを束ねた点が巧みだと感じました。速度標語に親しみがある人なら、通常の速さからより速いテンポへと上がっていく構成だと見分けがつくからです。
ただ、すべての顧客が音楽用語を知っているわけではありません。名前だけでグレードの説明を省けるとは考えにくいでしょう。初めて目にする人に対しては、価格や利用上限、機能の違いを併せて提示する必要があります。自分が慣れ親しんでいる名称が、顧客にとっても馴染み深いものかどうかは、別途確認しておく必要があります。
耳で聞いたときの響きも精査しなければなりません。「Allegretto」と「Allegro」は語頭が似通っています。画面上で並べて読むぶんには区別できても、相談窓口や口頭での説明では混同を招く恐れがあります。実際にどの程度混同が生じるのかは、ユーザーと対話して確かめる必要があります。
音楽用語には他にも候補が存在するため、名前を追加する余地はあります。しかし、新たなグレードが既存顧客にどう受け止められるかという点まで、名前単体で解決できるわけではありません。私はこの事例から、統一されたルールの利点と、顧客に必要な説明の両面を見ました。
ルールを作るときは追加と差し替えも考える必要がある
命名ルールが存在していても、規模が拡大したり使用環境が変化したりすれば問題が生じることがあります。世界気象機関(WMO)による大西洋の熱帯低気圧の命名がその一例です。
基本リストの名前を使い果たした2005年と2020年には、ギリシャ文字を追加の名称として使用しました。しかし2021年3月、委員会はこの方式の中止を決定しました。ギリシャ文字そのものが危険警報以上に注目を集めてしまったり、言語を切り替える際に混乱が生じたりしたほか、「ゼータ」「イータ」「シータ」のように発音が似通った嵐が同時に存在するという問題があったためです。
甚大な被害をもたらしたギリシャ文字の名称を引退(欠番)させる際の手続きも、あらかじめ定められていませんでした。委員会は「イータ」と「イオタ」を引退させ、個別の名称を差し替えられる補助リストを新設しました。ギリシャ文字を世の中から消し去ることができないからではなく、命名体系の中で該当の名前を除外し、次の名前を充当する手順が必要だったのです。WMOの2021年の決定
Googleは2019年、Androidの公開バージョン名をデザートの名称から数字へと変更しました。一部の言語では「L」と「R」の発音を区別するのが難しく、そのデザートに馴染みがないとバージョンの順序がわかりにくいという理由を挙げました。そして次のバージョンは「Android 10」と名付けられました。Googleによる名称変更の説明
これら2つの事例を見ても分かるとおり、名前同士のルールが合っているかだけでは不十分です。互いに区別できるか、新しい名前を追加できるか、問題が生じた名前を差し替えられるかも見届ける必要があります。
変えないほうがいい名前もある
逆に、変更すること自体が問題を引き起こすケースもあります。Unicodeは、一度付与した文字の正式名称を変更しないポリシーを堅持しています。既存のソフトウェアがその名前を識別子として利用しているためです。仮に名称にタイプミスがあったとしても、元の名前を修正するのではなく、訂正用の別名(エイリアス)を追加する手法をとっています。Unicodeの安定性ポリシー
これを単に命名に失敗したあと何もできなくなった状態と捉えるべきではありません。誤りを正す便宜さよりも、すでに稼働しているプログラムやデータとの互換性を優先した判断なのです。
製品の名前でも同様の問題が生じ得ます。画面上の表示名を変更するのは一見簡単そうに見えても、契約書、請求書、ヘルプ、さらには顧客の検索履歴にまで以前の名前が残ります。開発者が利用するAPIの名称まで共通していた場合、修正の範囲はさらに膨らみます。
そのため、名前を決めるときには何を変更可能にし、何を維持すべきかを切り分けておくと良いでしょう。顧客の目に触れる表示名は変更可能にしつつも、内部で対象を識別するための値は安定して維持するという方法もあります。また、名前が変わったあとに以前の名前で訪ねてくる人をどう案内するかも決めておく必要があります。
Oswarldの視点
私のワークショップで会議が短縮されたのは、より素晴らしい候補が突然現れたからではありませんでした。候補を評価するための基準に、あらかじめ合意できていたからです。各自の好みを説得し合う代わりに、その名前があらかじめ定めた役割や条件に合致しているかを比較できました。
私はルールを設計する際、まず以下の事項を決定するようにしています。
| 先に決めること | 検討の問い(例) |
|---|---|
| 使う人と場所 | 顧客向けの画面か、社内会議か? |
| 名前が伝える情報 | 機能か、グレードか、ブランドの個性か? |
| 許容する表現 | 説明的な単語を使うか、特定テーマの名前を使うか? |
| 区別の方法 | 耳で聞いても他の名前と区別できるか? |
| 変更の方法 | 名前を追加または削除した場合、既存の顧客にどう知らせるか? |
ブランド名を選ぶ会議に、機能名の命名ルールをそのまま適用することはできません。本棚に男性の名前をつける手法を、料金プランにそのまま持ち込む必要もありません。参考にすべき点は、条件にあらかじめ合意しておくことで選択肢の範囲を絞り込んだという点にあります。
前号でURLを取り上げた際、「長く使うアドレスには変わりやすい情報を慎重に入れるべきだ」と書きました。名前も同じです。一度決めたあと、どこで、どれほど長く使われるのかを考えれば、最初から除外すべき候補が見えてきます。
AIが候補をいくら大量に生成してくれたとしても、この意思決定は残ります。どの単語がより格好いいかを問う前に、顧客がその名前を目にしたときに何を理解すべきなのかをまず定めなければなりません。その条件に合致する候補の生成や、似通った名称・説明しにくい表現の洗い出しであれば、AIに任せることができます。商標や他言語での意味のチェックなどは、別途精査しなければなりませんが。
読者さんのチームで頻繁に命名している対象を3つ選んでみてください。それぞれにどのような役割の名前が必要で、どのような表現を使えるのかを1行ずつ書き出してみるのがおすすめです。候補リストよりも、その短い基準のほうが次の会議でも役に立つはずです。
💬 これまで分かりやすいと感じた製品名や料金プラン名はありますか? 逆に、すでに広く使われてしまって変更が難しくなった名前があれば、ぜひその経験も教えてください。
参考資料と関連リンク
- イケアの製品名ルール。
- Feitelsonら、How Developers Choose Names。
- Kimiメンバーシップ料金案内。
- WMOによるギリシャ文字使用停止の決定、2021年3月17日。
- GoogleによるAndroid 10命名の説明、2019年8月22日。
- Unicode文字名の安定性ポリシー。
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