第179号

「バグ修正だけに専念する」と言えるチームリーダーはなぜいないのか

GitClearの集計でリファクタリング比率は3.8%に激減、重複コードは81%増加。「修正する作業」が評価されない構造的な問題を読み解きます。

AI・テック「バグ修正だけに専念する」と言えるチームリーダーはなぜいないのか

顔認識を3回求めた銀行アプリ、そして祝福の投稿

先週、ある開発者が経験した一連の出来事を綴った文章を読みました。銀行アプリは決済確認画面までに3回の顔認識を要求し、遅れて立ち上がったSlackのウィンドウにフォーカスを奪われたせいで、ターミナルに入力中だったコマンドがグループチャットに誤送信されてしまいました。冷蔵庫の無償修理の申し込みは、長い入力フォームをすべて埋めた最後の段階で失敗しました。自動車のインフォテインメントシステムは、アップデート後に走行中の再起動を繰り返します。

彼が書き添えたエピソードが印象的でした。数カ月前にその車載OSを刷新したチームのPMが、素晴らしい成果を上げたとLinkedInでお祝いの投稿をしていたそうです。毎日その製品の不具合と格闘しているユーザーの頭には、その投稿が何度も浮かんできます。

開発チームは機能を素早く作ったと評価されますが、ユーザーは不具合によって不便を強いられています。AIは「コードを素早く書けない問題」を少なからず解決しました。しかし、「直した人に誰も報いない問題」には一切手を付けていません。開発スピードが上がっても保守が追いつかなければ、チームが評価する成果とユーザーが実感する品質との乖離は広がるばかりです。


スループットが向上したのは事実です

こうした結果をすべてAIのせいにするわけにはいきません。実際に開発スピードは上がっているからです。

GoogleのDORAチームが世界中の技術者約5,000人を調査した2025年のレポートによると、回答者の90%が業務にAIを利用しており、1日あたりの使用時間の中央値は2時間でした。そして2024年の調査とは異なり、AIの導入率が高いほどソフトウェアデリバリーのスループットとプロダクトの成果が同時に向上するという相関関係が観測されました。各チームがツールをどこでどのように使うべきかを学びつつあることを意味しています。

同じ傾向を示す個別のデータもあります。コード変更履歴を分析するGitClearが2026年1月に発表したレポートによると、AIをもっとも積極的に活用している開発者グループは、非利用者と比べて4〜10倍のアウトプットを出していました。ただし、ここには率直な但し書きがついています。その格差の大部分はAI導入以前からの個人の能力差であり、同一人物の過去のデータと比較した場合のスピード向上は**25%**程度にとどまりました。AIが優秀な人材を生み出したというよりは、もともと優秀だった人が真っ先にAIを使いこなしたという解釈が自然です。

問題は、同じDORAレポートに併記されたもうひとつの結果です。AIの導入率が高い組織ほど、デプロイの不安定性1も同時に上昇していました。障害による予定外のデプロイが増えているということです。DORAはこの組み合わせを次のように総括しています。AIは「増幅器」であると。うまく機能していた組織の強みを伸ばす一方で、きしんでいた組織の欠陥も等しく拡大させてしまうのです。