AIで仕事は速くなったのに、経済全体への効果はなぜ別に見るべきなのか?
個人の作業時間、組織の業務効率、経済全体の生産性を区別し、GTM導入現場で見た経験と結びつけます。
ビジネスGTM戦略を策定する現場で、新しいツールを導入したのに期待したほど仕事が速くならない場面を何度も見てきました。SaaSやCRMを導入し、クラウドに移行したときも同じでした。既存の業務にツールを追加した後になって初めて、承認プロセスや部署間の協業の仕方を見直し始めるのです。
AIをめぐる生産性論争を見ていて、その経験を思い出しました。個人は文書の草案を速く書けるようになったと言われる一方、経済全体でAIの効果がどれほど現れたのかは依然として議論の最中です。この二つの話は必ずしも矛盾するわけではありません。個別作業にかかる時間、組織が仕事を終えるまでにかかる時間、経済全体の生産性は、それぞれ異なる指標なのです。
AI関連投資が増えても、業務効率が確認されたわけではない
データセンターを建設しサーバーを購入する投資は、経済活動を押し上げます。その設備を利用する企業が同じ時間でより多くの製品やサービスを生み出せるようになったかどうかは、別途確認する必要があります。AI関連の投資額だけでは、AIを使う労働者の生産性向上の幅を知ることはできません。
生産性統計そのものも、解釈には注意が必要です。イェール大学Budget Labのマーサ・ギンベルは2026年2月の分析で、直近数四半期の米国の生産性増加率は比較的高かったものの、パンデミック以前と比べて異例の水準ではないと説明しました。生産性を計算するのに使われる産出高と労働時間のデータは修正され得るため、初期の数値だけで大きな変化を確定するのも難しいとのことです。
平均値が上昇する理由も一つではありません。例えば、生産性が低く測定される業種の雇用が減れば、残った労働者一人ひとりの働き方が変わらなくても、全体の平均は上がり得ます。生産性の増加をAIの効果だと説明するには、こうした構成変化や設備稼働率のような他の要因も検討する必要があります。
これは、AIに効果がないという結論を意味するわけではありません。**統計に現れた変化のうちどの程度がAI利用によるものかを、まだ切り分ける必要があるという意味です。**一、二四半期の良い数値や悪い数値だけで結論を出すのが難しい理由でもあります。
AIを使った経験と業務への定着度は別物
セントルイス連邦準備銀行が紹介した2024年8月の調査では、米国の18〜64歳の回答者の約40%が生成AIを使用した経験があると答えました。この数値には業務以外での利用も含まれます。これをそのまま、労働者の40%が毎日AIで仕事をしているという意味に読み取ってはいけません。
誰に尋ねたのかも重要です。BCGの2025年調査は、11の国・地域のオフィスワーカー10,635人を対象に行われました。経営陣と管理職のうち定期的にAIを使用する割合はそれぞれ4分の3を超えましたが、現場の従業員は51%でした。ここでの定期的な利用とは、毎日または週に複数回使用する場合を指します。
会社がAIを導入したという回答だけでは、実際の活用度合いを把握するのは難しいものです。どの職務で、どの作業に、どれくらいの頻度で使っているのかまで見る必要があります。経営陣の使用経験と現場従業員の業務環境が同じだと仮定することもできません。